今や、多くの人が食品ロスの問題に関心を持っていることでしょう。食品ロスは「もったいない」だけではなく、環境問題としても重要です。では、食品ロスを減らすためには、一体どのような取り組みが社会に広がらなくてはならないのでしょうか。食品ロス問題ジャーナリスト・井出留美さんのナビゲートで、我々がお手本とすべき食品ロス削減の"最前線"をご紹介します。
意外に知られていない
「地鶏」ってなに?
「地鶏」という言葉は聞いたことがあっても、その定義を知っている人は少ないかもしれません。地鶏とは、日本の在来種の血を半分以上受け継いでいるニワトリで、出生証明のできるものを指します。JAS規格(日本農林規格)では、以下の3つの飼育条件すべてをクリアしたものだけを「地鶏」と呼んでいいことになっています。
▷75日以上の飼育期間を経ているもの
▷28日齢以降は平飼いしたもの
▷28日齢以降は1平方メートル当たり10羽以下の飼育密度で飼育されたもの
国産鶏肉の流通量に占める地鶏の割合は、わずか1%に過ぎません。
この地鶏を提供している飲食店は多くありますが、なかでも今回ご紹介したいのが、愛媛県松山市の地鶏専門店「とり泉」です。とり泉では、松風地鶏(コーチン)と宮崎地頭鶏(じとっこ)という2種類の地鶏を扱っています。
とり泉の基本コースは6,600円、おまかせコースが10,000円〜と決して安くはありません。なぜなら、地鶏の仕入れ値は一般的な若鶏と比べると13倍も高いからです。ですが、その分、とり泉の地鶏は防腐剤や成長ホルモン、抗生物質とは無縁のエサを食べ、広々とした鶏舎でたっぷり運動して育つので、健康的で骨も太く丈夫、味も非常によいのです。
地鶏を丸ごと使い切る!
とり泉の工夫とは?
とり泉の特徴は、ただお肉が美味しいというだけではありません。とり泉は地鶏を丸ごと、無駄なく提供するお店なのです。
一般的に鶏は生体重量2500gのうち、1425gほどの精肉と内臓が可食部位になります。つまり、それ以外の1000gほどの骨や皮などは食材としては利用されないのです。
一方、とり泉では、せせり、ぼんがわ、そで、ずりなどの希少部位を含め、信頼する生産者が大切に育てた地鶏をまるごと1羽使い切れるように、コース料理は基本的に「おまかせ」となっています。お客さんに地鶏を食べ尽くしてもらうには、普通なら料理には使わない部位をおいしく食べてもらう工夫が必要となり、料理人の腕が試されます。刺身は提供していません。
たとえば、首の筋肉である「せせり」は筋が多く、そのままでは噛みきれないので、まわりに包丁を入れて食べやすくしています。脂がのった皮の部分は炙って、きゅうりとしらたきと合わせて酢で和えて、「うざく」ならぬ「皮酢」にします。地鶏の種類によって塩を変え、肉の部位によって、肉を寝かせる時間や火の通し方を変えるなど、希少部位をおいしく食べてもらうための工夫をしているのです。
また、どうしても残ってしまう部位や、骨についた肉はきれいにこそげ落として「ぎょうざ」の具に使い、骨は出汁に使っています。
とり泉の食材への思い入れは鶏だけではありません。とり泉で提供されるご飯のお米は、従業員全員で育てたものです。従業員総出で朝から晩まで泥だらけになって田植えや稲刈りをします。バイトの学生たちにも、自分たちの食べているもの、自分たちが扱っているものがどんなものなのか、身体の感覚として身につけてほしいからです。
赤いのれんをくぐって「とり泉」に入ると、入口で松風地鶏の鶏舎の映像が流されていて、映像の最後に、こんなテロップが流れます。
「人は生命をいただいて生きています」
「食は生命をつなぐこと」
「食べ物が人を育てるから、素材に手を抜かない、料理に手を抜かない」
そして、ホームページには、こう書いてあります。
私たちの提供しているのは「命」です。
食べるとは「命をいただく」ということ。
これこそ、食品ロスの問題で私たちが考えなくてはいけない、とても大切なメッセージなのではないでしょうか。
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