
食品ロスは私たちの身近な問題であると同時に、世界各国で様々な取り組みが進んでいる国際的な課題でもあります。世界の食品ロス対策と比べて、日本の食品ロス対策って一体どうなの?そんな広い視点から見た食品ロス問題について、食品ロス対策の分析がご専門の愛知工業大学・小林富雄先生に解説して頂きます。今回のテーマは「もったいないは終わった」。日本のこれまでの食品ロス対策の課題とこれからの方策を考えます。
「食品ロスとフードロス」
意味の違い、ご存知ですか?
前編では、いまや食品ロス対策もSDGsにまつわる課題となりつつあるとお話しました。国連が定めるSDGsの達成のためには、個人の心がけに依存してきたこれまでの日本の食品ロス対策から、抜本的な食のサプライチェーンのシステム変革へと対策の重心を移す必要があります。
今回は、食品ロスを削減するためのシステム変革を進めている実例として、フランスなど対策先進国での動向をご紹介します。ですが、その前にここで少し食品ロスにまつわる言葉の整理をしておきたいと思います。
食品ロスの問題では、しばしば「フードロス」(Food Loss)という言葉が食品ロスと同じ意味であるかのように用いられています。しかし、フードロスと食品ロス、この2つは全く異なる意味なのです。
日本語の「食品ロス」とは、食品から発生する廃棄物全体を指す「食品廃棄物」のうち、まだ食べられる部分(可食部)を指します。つまり、バナナでいえば、その皮は食品廃棄物ですが、中身は食品ロスということになります。
一方、国連による定義をみると、「フードロス」(Food Loss)は「廃棄される仕組みがあり無意識に捨てられるもの」とされています。わかりやすく言えば、主に産地での生産・収穫から店舗に届くまでの輸送中に意図せず発生した廃棄を指します。
フードロスとセットで扱われる概念として、「フードウェイスト」(Food Waste)があります。これは「選択を失敗するなど、人の自由意思にもとづく行為によって引きこされるもの」で、主にお店や消費の段階で廃棄されるものとされています。下のイラストは、このフードロスとフードウェイストの違いを説明しているものです。
まとめると、日本語の食品ロスは「まだ食べられるかどうか」に注目した概念です。一方で国際的に用いられるフードロスやフードウェイストは、発生原因が意図的かどうか等も踏まえながら、「生産から消費までのどの段階で廃棄が発生しているのか」に注目していると言えるでしょう。
こうした食品ロスについての用語や概念の違いは、対策のあり方にも違いとして現れています。
日本の食品リサイクル法では、余剰農産物の産地廃棄や出荷時に仕分けされる規格外農産物はリサイクルの対象とされていません。一方、例えばフランスでは産地廃棄される農産物も削減の対象となっていますし、アメリカでも収穫後(Post-harvest)の農産物、つまり出荷時に仕分けされる農産物が削減の対象とされています。
このように外国をみると、日本に比べて生産や出荷の段階での食品ロス対策が進んでいます。言い換えれば、サプライチェーンの各段階が連携しながら食品ロス削減に向けた取り組みを進めているのです。
そして、このサプライチェーンの各段階が連携し、食品ロスをシステムで考える姿勢こそが前編から指摘している日本の食品ロス対策に求められていることです。
食のサプライチェーンを変革
ヨーロッパでの対策のいま
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界では生産量全体の3分の1にあたる13億トンの食料が毎年損失・廃棄されていると推計されています。
こうした状況を受けて、2015年9月に採択されたSDGsでは、Target 12.3にて「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減」と明記されています。先ほどの話を踏まえるとここでの「食料の廃棄」とはフードウェイストを指しています。
フードウェイストは小売・消費の段階で発生することから、その発生原因が人間の意図的な部分にあることが多い。したがって、フードウェイストは削減に向けた数値目標を設定しやすいという事情もここにはあります。
欧州ではこれに準ずる削減目標値の設定と法整備が進み、2016年にフランスとイタリアでは相次いで「食品廃棄禁止法」が制定されました。特にフランスの法制度では大規模・中規模の小売店(GMS)における廃棄の罰則規定が設けられ、GMSはフードバンクと呼ばれる余剰食料を福祉に利用する認定団体との間で協定を結ぶことが義務付けられています。
さらにフランスでは、2018年に「農業・食料平等法(通称EGalim法)」という別の法律にも具体的な食品ロス削減施策が盛り込まれました。このEGalim法は、「フードサプライチェーンを健康的で持続可能、かつ食品アクセスを可能にするようバランスを保つ」ことを目標に、有機農産物の推進や養鶏のケージ飼いの禁止、学校給食で週に1回はベジタリアンメニューを提供することなどを求めています。
そして、食品ロス対策では「食べ残しの持ち帰りを断ってはならない」、「小売(400㎡以上)、ケータリング業者(3000食/日)の食品ロス対策の報告義務」などが明記され、次世代の食のサプライチェーンを強く意識した総合施策となっています。
なお、フードウェイストの半減を目指すSDGsのTarget12.3は、Goal12「持続可能な生産消費形態を確保する」に属しており、EGalim法はその流れを汲んでいます。ただし、既存の法制度をSDGsと整合的に組みなおす作業は極めて煩雑であり、フランス政府の担当官は「かなり幅広い法体系であるため、省庁間のすり合わせ作業がかなり大変だった」と語っていました。
イギリスでも2010年にGSCOP(Groceries Supply Code of Practice)という規範的な流通を求める法律が成立し、大規模小売業の突然の発注キャンセルを禁じることによって食品ロス対策が本格化する契機となりました。このように、欧州ではサプライチェーン全体を本質的に見直そうという潮流があります。
日本もこうした欧州での対策を模範として、「まだ食べられるから、もったいない」という心がけによる食品ロス対策から、「サプライチェーン全体で食品ロスを減らすこと」を重視したシステムの観点で具体的な対策を行うべきです。SDGsの意識が広く社会に浸透している今こそ、変革のときではないでしょうか。
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