2021年6月30日

もったいないは終わった 前編「個人の心がけから、システムへ」

愛知工業大学経営学部教授 小林富雄

食品ロスは私たちの身近な問題であると同時に、世界各国で様々な取り組みが進んでいる国際的な課題でもあります。世界の食品ロス対策と比べて、日本の食品ロス対策って一体どうなの?そんな広い視点から見た食品ロス問題について、食品ロス対策の分析がご専門の愛知工業大学・小林富雄先生に解説して頂きます。今回のテーマは「もったいないは終わった」。日本のこれまでの食品ロス対策の課題とこれからの方策を考えます。

世界有数の食品ロス大国か?
日本の現状をデータで整理

2021年は食品リサイクル法の施行から20年という節目の年です。20年前、当時大学院生だった私の食品ロス研究もほぼ同時期にスタートしました。

この間、日本ではメーカーや小売業者などの事業系と呼ばれる分野を中心に、食品廃棄物のリサイクル(Recycle)において最先端な取り組みが進みました。しかし、2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されてからは、食品ロスの削減(Reduce)という点では日本は欧米に対して後れをとったと感じる部分もあります。

今でも一部メディアで「日本は、世界有数の食品ロス大国」といわれることがありますが、2001年の食品リサイクル法施行以来、事業系や家庭での対策はそれなりに進展しています。

現在の日本の食品ロスの発生量は、下図のとおりです。最新の2018年度ではちょうど600万トンと推計され、その内訳は事業系324万トン、家庭系276万トンと少し事業系が多くなっています。また2015年以降は微減傾向にあり、政府目標である2000年度をベースにした2030年度の半減目標489万トン(事業系は273万トン+家庭系216万トン)まで、あと100万トン強というところです。

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家庭系については詳細なデータがないためハッキリしたことは言えませんが、事業系の食品ロスについては、過去20年でやれる範囲では対応してきたというのが本音でしょう。しかし、2012年以降の食品ロス発生量の推移について、その推計方法を考慮すると、削減努力の成果というよりは景気などの外部環境変化の影響を受けている可能性を拭えません。

また、日本では2019年に食品ロス削減推進法が施行され、事業系だけでなく消費者や農家、そして地方行政まですべての主体を対象に「国民運動」を展開すると明記されました。

「もったいない精神」による一人一人の心がけへの依存の大きい、この「国民運動」というのは、歴史的に見ると、日本の食品ロス対策の伝統ともいえる手法です。しかし、SDGs時代の現代において、これまでの日本における食品ロス対策が通用しなくなってきています。

心がけに頼る日本の伝統
"もったいない"からの脱却を

これまで、日本では時代ごとに様々な食品ロス対策を打ち出してきました。

例えば、第二次世界大戦中には「欲しがりません、勝つまでは 」という標語がありました。写真は1925年のイギリスのポスターですが、「食料は武器」とあるように、戦争に勝つために食料の廃棄は死活問題ともいえる重要な課題でした。

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出典:United States Farm Security Administration

2017年に終了した米の減反政策も、売れずに過剰となるコメを生産抑制する点では食品ロス政策といえそうです。ただし、ここでの目的は米価維持と農家所得補償にありました。

さらに食品リサイクル法は、ゴミの最終処分場の枯渇などの問題に対処することを目的に、食べられるかどうかに関わらず、食品ロスを含む食品廃棄物を焼却しない手段としてのリサイクルに主眼が置かれました。

これまで個別の具体的な課題に対処するべく、日本では様々な食品ロス対策が行われてきました。しかし、SDGs時代の現状では、食品ロス削減の目的は、SDGsの「17の目標」にあるように、環境、社会、経済を横断する包括的なものになりつつあります。

そして、この目標達成のためには「もったいない」による個人の心がけを超えた、抜本的な食のサプライチェーンの見直しを含めた、新しいシステムづくりが欠かせません。

これまでの日本の食のサプライチェーンの本質的な課題は、価格と数量ばかりが食べ物の価値として重視され、「食の質的な評価」が後回しにされてきた点にあります。スーパー等での欠品防止のために過剰在庫が発生し、価格安さゆえに、余った食べ物が転売されずに捨てられる食のサプライチェーンを作ってきたのです。

本サイト「エシカルはおいしい!!」のテーマであるエシカル消費なども、食べ物の価値を価格や数量だけで評価するのではなく、質的に評価できるかどうかが課題の本質です。

もちろん食料不足で貧しかった時代には、価格と数量で食べ物を評価することは合理的でした。そして、食品ロス対策でも「もったいないから、食べる」という方法が効果を発揮できたのです。

しかし、いま「もったいないから、食べる」というこれまでの日本の食品ロス削減の方針に対して、SDGsの観点から「なぜ食品ロスを減らさなければならないのか」ということが問われています。そのために必要なのが、食べ物を価格や数量ではなく「質」で評価する食のシステムなのです。

では、具体的に食品ロスを減らすシステムとはどのようなものなのでしょうか?「もったいない」からの脱却が必要な日本のこれからの食品ロス対策の指針を得るべく、後編では食品ロス対策先進国での取り組みをご紹介します。

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プロフィール
小林富雄(こばやし・とみお)
1973年富山県生まれ。2003年名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程修了。生鮮食品商社、民間シンクタンクを経て、2017年より現職。専門は食品サプライチェーンと食品ロス対策の分析。著書に『増補改定新版 食品ロスの経済学』(農林統計出版, 2020年)など。
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