2020年3月12日

短角牛と赤身肉のいい関係

グッドテーブルズ代表 山本謙治

近年、サシの入った霜降り牛肉ではなく、赤身部分の多い赤身牛肉を好む人が増えている。赤身肉にもいろいろあるが、和牛品種のなかで特に赤身に特徴があるといわれ、おいしい赤身肉として評価されているのが短角牛である。赤身肉品種としての短角牛の真実に迫る。

短角牛を表現する時によくいわれるのが「赤身肉がおいしい」ということだ。これには理由がいくつかある。その一つは短角牛のルーツにある。

短角牛の祖は、現在の岩手県北部から青森県南部地方で荷役牛として利用されてきた南部牛という在来牛である。「南部牛追い歌」という民謡に歌われたように、この地域では沿岸部で塩作りをして、俵に詰めた塩を南部牛にくくりつけて、内陸の山間部へ運んでいた。もちろん日々の農作業でも温厚な性格で力持ちという特徴をもつ南部牛が活躍した。

nanbuushi.JPG

明治に入ると、外国との交流の中で、大型の西洋種を輸入し、日本の牛と掛け合わせることが試みられた。南部牛の産地でも、ショートホーンという品種を欧米から輸入し、掛け合わせる試みがなされた。ショートホーンは放牧でもよく育つ肉用種で、ヨーロッパやアメリカでいまも人気があり、育てられている品種だ。肉用のショートホーンと、酪農にむくデイリー・ショートホーンを主に掛け合わせた。このショートホーン種も、赤身肉主体になる肉牛品種だ。

荷物を運んだり農耕用に働いたりしていた牛の役割は、エンジンを備えた農業機械が普及するにつれて変わり、肉や乳をとるための牛となっていった。そして昭和32年、正式名称を「日本短角種」として和牛の一品種に登録されることとなった。以前は短角牛が乳牛として育てられ、搾乳されていたこともあったという。その後、短角牛は肉用として育てられることとなり、今日に至っている。

もともと筋肉質な南部牛とショートホーンの掛け合わせによって、短角牛は放牧に向き、牧草やサイレージなどの粗飼料を食べて赤身中心の肉質に育ってくれる牛となったのである。

030620tankaku_19.jpg

ただし、その肉質はつねに高く評価されてきたわけではない。とくに、牛肉の格付が霜降り度合いと歩留まりで評価されることとなった1988年以降、短角牛の価格は農家の期待を下回る時期が続いた。

030620tankaku_20.jpg

日本の牛肉の格付は、霜降り度合いが高ければ高いほど、等級も上がり高い価格で取引される傾向にある。和牛として登録されている黒毛和牛や褐毛和種といった品種は、育て方にもよるが霜降り度合いが高くなる品種だ。しかし短角牛は和牛品種の中でも赤身度が高く、霜降り度合いは低い。そうしたことから、食肉格付を参考に価格を決めようとする一般の流通では、正当な評価を得ることが難しい。

030620tankaku_21.jpg

ところが、2010年前後から、日本で牛の赤身肉を見直す「赤身肉ブーム」が興った。霜降り度合いの高い牛肉は、すき焼きやしゃぶしゃぶといった料理で食べると美味しいものの、厚めにカットしてステーキにする等の食べ方には必ずしも向かない。フランスやイタリアなどで修行したシェフや日本料理の世界から、霜降り度合いはほどほどで、赤身の旨みが感じられる牛肉へのニーズが高まった。

030620tankaku_12.jpg

そこで評価を高めたのが短角牛の赤身肉だ。欧米で修行をしてきたシェフたちは「日本では脂が多すぎてソースに合わない牛肉しか手に入らなかった。短角牛のような肉を待っていた!」と喜んだ。

030620tankaku_4.jpg

日本料理の料理人も、お造りや煮物とのバランスのよい赤身肉をさがしていたことで、短角牛を好ましい肉と評価する声が挙がった。

030620tankaku_18.jpg

近年も、牛肉への注目と赤身肉ブームは続いている。短角牛の赤身肉はますます世に出て行くだろう。ただし、短角牛の赤身肉の味わいは、その品種のルーツにだけあるわけではない。牛の肉の味を決める要素には、品種のみならず餌が重要な役割を果たしている。

030620tankaku_9.jpg

前回の記事で記したとおり、夏山冬里方式で育てる短角牛は、子牛時代を牧野で母牛の乳を飲みながら牧草を食べて過ごす。その後、9ヶ月齢あたりから牛舎に入り、「肥育」といって、肉牛として育てるための飼料を与える。この飼料の中身が、岩手県内の各産地で特色があるのだ。それによって、短角牛のあじわいはさまざまなものとなる。

030620tankaku_11.jpg

次回以降、各産地の飼料の中身と、肉質についてお届けしよう。

※このサイトに掲載している文章、写真はすべて無断転載禁止です。
プロフィール
山本謙治(やまもと・けんじ)
1971年愛媛県生まれ、埼玉県育ち。
学生時代にキャンパス内に畑を開墾し80種の野菜を栽培。大学院修士課程修了後、大手シンクタンクに就職し、電子商取引と農畜産関連の調査・コンサルティングに従事する。その後、花卉・青果流通のワイズシステム(現・シフラ)にて青果流通部門を立ち上げ。2004年グッドテーブルズを設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事。その傍ら、日本全国の佳い食を取材し、地域の食材や食文化、郷土料理を伝える活動を続けている。2009年より高知県スーパーバイザー・畜産振興アドバイザーを受任。2019年には土佐あかうし「柿衛門」のオーナーとなる。
山本謙治の記事一覧

最新記事

人気記事