2019年9月13日

"エシカル"って何だろう?

英国エシカルコンシューマー主筆 ロブ・ハリスン

日本ではまだ、なじみの薄い「エシカル」という言葉を知るために。
イギリスのマンチェスターで1989年に雑誌Ethical Consumerを創刊し、さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づく「エシカル度」を数値化し、評価してきたロブ・ハリスンさんに聞きました。手紙のように、定期的にエシカルについての基礎知識を紹介していただきます。第1回目は、誰もが聞きたいこの質問。「エシカルって、なんですか?」。ロブさんはどう答えるでしょうか?

"エシカル"って何だろう?

「エシカル」とは、私たちが「より良い社会や人々」のために「良い」「正しい」判断を下す際の行動を表す言葉です。
例えば、ご近所に親切にしたり、相手が感じることに敬意を払ったりと、私たちは日常的に「エシカル」な判断をしています。ですが買い物に行くときはどうでしょう? だいたい自分のことだけを考えていますよね。一番安いものや、自分が満足するものを買っています。経済学者いわく、人々が各々の満足を満たせば市場の消費は成り立つというわけです。

1980年代に起きた消費のムーブメント

1980年代、すべてのイギリス人の消費行動がこのパターンに当てはまるわけではないことに、我々は初めて気づきました。例えば、一部の教会グループは、人種差別であるアパルトヘイト政策を行った政府が経営する農園の、南アフリカ産の果物をボイコットしたのです。環境保護者はオーガニック・フードを買い、動物愛護者は動物実験された化粧品を買わなくなりました。

我々は当初、このようにより広域への影響を考慮して選択購入する行動全般について「エシカル」という言葉を使いました。全てではありませんが、多くのケースで消費者たちは環境団体やキャンペーン・グループが起こす要望に応えるべく行動していたのです。

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もちろん、こうした「エシカル」な選択を皆が賛同していたわけではありません。オーガニックなものを買うことは間違っているとか、ただ単に高すぎると感じる人もいたのです。それでも我々は、「エシカル」という言葉に手応えを感じていました。何が「エシカル」で何がそうでないのか、たとえすべての人々の意見が一致しなかったとしても、話し合い、考えを共有する社会になることが、他人に問題をなすりつけるよりも大切だと感じていたのです。

エシカルにまつわる3つの問題

そこで我々は「エシカル・コンシューマー(Ethical Consumer)」という雑誌をイギリスで立ち上げ、人々が考えるエシカルな問題について次の3つに分けました。

  • 環境に影響するもの
  • 人権および労働者の権利
  • 動物愛護

我々はよく知られたブランド(メーカー)とこうした問題を関連づけて紹介し、懸念すべき問題はどこかを分かりやすくしました。また賛同できない商品は掲載しないようにしました。

下の表は、我々が行ったビールとラガーブランドの調査結果の一部です。

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企業の参加

その後に起きたことは、我々が想像していなかったことでした。

我々はより「エシカル」な商品を選択できるためのリサーチをしたのですが、企業はこの新しい市場に特化した「エシカルな商品」を売り込むことによって新たな利益が出るのではないかと考えたのです。

一部には洗浄力の弱い洗浄製品やスープのような味のコーヒーなどあまり良くないものもありましたが、大部分はより優れたものでとても売れました。エシカルな製品が身の回りに増えるにつれ、より多くの人々がエシカル製品の購入を一般的なものとして考え始めるようになったのです。最近ではイギリスで売られているバナナの約33%が「フェアトレード」ですし、80%以上の紅茶には商品に何らかのエシカル・ラベルが貼られています。

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エシカル・フードとは何か?

競争の激しいヨーロッパの食品市場では、これまで「倫理」より「効率」を重視した大規模農場の運営に利があると考えられてきました。このことが土壌や野生生物にダメージを与える化学品の大量使用や、小さな屋内スペースで何千もの家畜を飼育する大規模農場を生んだのです。
イギリスにはウォルマートやテスコのように、世界規模のサプライ・チェーンを有する大型スーパーマーケットがあり、そこで働く従業員たちは自分の食べ物を十分に買えないほどしか賃金をもらえないこともありました。

こうした状況は、私たちが環境、動物、そして人(労働環境)の分野でエシカルな選択肢を重要視する中で、企業もまた成長し変化し、新しく大きな食のムーブメントを促しました。それがエシカル・フードです。
つまり殺虫剤の使用を極力避けて作られるオーガニックな果物や野菜、日光を浴び草の中で放し飼いされる家畜、熱帯諸国で生産に携わる労働者やその家族を養うのに十分な賃金とサポートを保障した「フェアトレード」生産などです。

「エシカルとは何か?」という問いへの答えは、それぞれの製品や様々な事案によって異なるため、非常に難しいでしょう。大きな組織や団体はそのひとつひとつに取り組みながら成長してきました。
たとえば持続可能な漁法で漁獲された魚にラベルを付ける「海洋管理協議会(MSC)」には現在375人の従業員がいます。認証されるにはどのようなことを満たさねばならないのかを詳細に記載した情報は100ページ以上にのぼることもありますが、300以上の漁業者が認証されました。

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私が特に気に入っているエシカル・フードは、CafeDirectのフェアトレード・ティーです。
わたしたちイギリス人は強くて濃い紅茶を飲む傾向がありますが、それらの茶葉の種類はインドやスリランカ、ケニアでつくられています。多くの調査でこれら3カ国の茶葉栽培地では、未だ乳児死亡率と栄養失調の問題が根強くあります。
正当な対価で取引することを保証するフェアトレード・ラベル商品は、通常の茶葉より約10%以上値段が高いです。が、商品を購入できるくらいのお金はあるので買うようにしています。
なんとなく紅茶がより美味しくいただける感じがするんですよね。

第二回に続く

2018年7月29日寄稿
翻訳:上原尚子

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プロフィール
ロブ・ハリスン(ロブ・ハリスン)
エシカルコンシューマー・リサーチアソシエーション 代表
Ethical Consumer Research Association(ECRA)
イギリスのマンチェスターで1989年に雑誌Ethical Consumerを創刊。さまざまな商品・サービス・企業について独自の調査に基づくEthic Soreという尺度でエシカル度を数値化し、評価してきた。オンライン主体のメディアとなった現在も同誌の主筆を務めつつ、エシカル度の向上に取り組む企業へのコンサルティングや、国際的NGO、または複数の政府機関の顧問を務める。
エシカル先進国であるイギリスにおいても、その発言が重要視されるキーパーソンである。著書として「The Ethical Consumer」Rob Harrison(編著)
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