2019年8月16日

知っているようでじつは識らないフェアトレードを理解する

グッドテーブルズ代表 山本謙治

 食のエシカルのテーマの中で、環境問題と並んですぐに連想されるのがフェアトレード。日本でも、フェアトレードのチョコレートやコーヒー製品をみかけることがあると思います。ただ、これを買うと生産者が助かるのだろうけど、どんな仕組みなのだろうかと疑問を持つ人もいるでしょう。今回はそんなおはなし。

なぜフェアトレードが必要か

フェアトレードを「公正な貿易」と訳すとすると、その反対の不公正な貿易も存在するということになります。21世紀にもなり、これだけ情報が飛び交う世界でまだそんな格差があるの?と思うかもしれませんが、残念ながら世界には不公正な貿易が蔓延しています。例えば取引相手が文化的な生活をできるギリギリの線の価格まで買い叩き、学校に行くべき児童も労働にかり出さねばならない状況に追い込むような取引です。
「そんな相手と取引せず、他の買い手を探せば?」と思うかもしれませんが、例えばカカオ豆の産地は山間部の森の奥の奥。生産者はマーケットと切り離されていて、他の客を探すことは現実的ではありません。また、カカオの価格は国際的な市場の相場で決定されており、そこに「生産者が食べていけるか」という要素はほとんど考慮されていません。結果、一家総出で働きながら、ギリギリの生活を続けていくしかないという生産者が多くなってしまうのです。

現在、不公正な貿易のために極度の貧困にあえぐ人は8億人以上、奴隷的な労働を課されている人は4000万人以上、学校に行くべき歳なのに労働させられる児童労働は15千万人以上。そして、75カ国139製品が児童労働や強制労働によって作られているという調査があります。だから、フェアトレードが必要なのです。

そのフェアトレードは信頼できますか?

フェアトレードは、開発国の商品を生産者とその地域が発展できる価格で買う取り組みで、1970年代に欧米で生まれました。当初はさまざまな取り組みや団体がありましたが、30年ほど前に認証(ラベル)の仕組みができ、現在ではフェアトレード・インターナショナルという組織が国際的なフェアトレードの仕組みを運営しています。

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フェアトレードのもっとも大きな特徴は、産品ごとに「公正な価格」が設定されていること。たとえばアラビカ種のコーヒー豆であれば、最低価格が1ポンドあたり140セント。それが生産者にとって文化的に暮らせる最低ラインで、国際的な市場価格がどんなに下がったとしても、これ以下にしてはいけません。この価格は、産地を入念に調査して決定された価格で、カカオやスパイスなどすべての品目のフェアトレード価格がインターネットで公開されているので、興味があればご覧下さい。

フェアトレードのもうひとつの特徴が、フェアトレード価格に加えて「プレミアム」というお金を支払うことです。プレミアムは商品代金とは別の扱いで、その産地の組合などで合議し、地域の発展や組合員の生活のために使うためのもの。例えば地域に学校を建てたり、橋を造ったり、機械を買うなど、生産者たちが生活を向上させるために使えるのです。フェアトレード価格で個々人の生活を営む十分な価格を保証した上で、プレミアム分で産地全体の文化や生活水準を向上させる投資をするという仕組みなのです。

こうしたフェアトレードに賛同している国は130カ国に上ります。でも、コーヒーやカカオを買う側のメーカーや販売業者は、ほんとうに生産者にフェアトレード価格を支払っているの?そうした疑問に応えるための仕組みが認証システム。フェアトレード・インターナショナルは取引をきちんと監視し、生産者にきちんと支払われているか、生産者がプレミアムを正しく使っているかなどを確認しています。国際フェアトレード認証ラベルがついているものは、この認証を取得したものと考えてけっこうです。

ラベルはないけど、フェアトレードと書いてある商品は信じていいの?と思うかもしれませんが、ここで要注意。フェアトレード・インターナショナル以外にもいくつかの国際組織があり、また企業が自前で「うちはフェアトレードやってます」というケースもあったりします。中にはフェアトレードを謳いつつ、一般的な価格しか支払っていないインチキや、イメージをよくするためにフェアトレードとウソをつく業者もいるかもしれません。まずはフェアトレード認証ラベルがはっきり刻印された商品を手に取るようにしていただくのが無難でしょう。

できる範囲でフェアトレード商品を楽しもう

現在、日本で手に取ることができるフェアトレード認証ラベルがついた製品は1200点。コーヒーや紅茶、チョコレートにオリーブオイル、砂糖にスパイス、ゴマにバナナなどの食材のみならず、サッカーやバスケット競技に使うボール、タオルやシャツなどのコットン製品など、さまざまです。オーガニックの産品だったり、おいしいことで有名なものもあったりしますから、ぜひ買ってみてください。これを食べることで自分のエネルギーになり、また産地の人達の生活を支えている。お互いに支え合っているという実感を持てるかもしれません。

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生協で販売されているセイロン紅茶とコーヒー。フェアトレードラベルが印刷されているものを選ぶこと。

ただ、全ての買物をフェアトレードで買わないと、と思う必要はありません。そんなことは長続きしませんよね。まずは、10回の買物で1回程度手を伸ばすというくらいでも、産地にとってよい影響があるはずです。生活の中で、余裕があるときに産地のことを想いやり、フェアトレード製品を味わってみましょう。それで十分、国際的な支え合いになるのです。

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プロフィール
山本謙治(やまもと・けんじ)
1971年愛媛県生まれ、埼玉県育ち。
学生時代にキャンパス内に畑を開墾し80種の野菜を栽培。大学院修士課程修了後、大手シンクタンクに就職し、電子商取引と農畜産関連の調査・コンサルティングに従事する。その後、花卉・青果流通のワイズシステム(現・シフラ)にて青果流通部門を立ち上げ。2004年グッドテーブルズを設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事。その傍ら、日本全国の佳い食を取材し、地域の食材や食文化、郷土料理を伝える活動を続けている。2009年より高知県スーパーバイザー・畜産振興アドバイザーを受任。2019年には土佐あかうし「柿衛門」のオーナーとなる。
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