2020年7月16日

豊かな海を未来に継いでいくために、わたしたちの買物でできること。MSC「海のエコラベル」を識ることがその第一歩!

グッドテーブルズ代表 山本謙治

多くの日本人が、日本は水産大国であると自覚しているだろう。たしかに日本は四方を海に囲まれ、世界屈指の好漁場とも言われる海域を有している。けれども、いま日本の漁業は「魚が獲れない」という深刻な問題に直面している。原因は色々とあるが、もっとも大きな理由は「獲りすぎ」だろう。水産資源は限りがあり、将来にわたって日本の豊かな魚介類の美味しさを享受するためには持続可能性を踏まえた水産物の資源管理が必須だ。
「でも、それは漁師さんとか国の問題でしょ」もしかすると、そう思われるかもしれない。しかし、将来の水産資源のためにカギとなる存在は、わたしたち消費者だ。どんなお魚を選ぶかによって、この状況を変えることができる。まずはMSC認証とその水産物につけられる「海のエコラベル」を識ってほしい。

MSC認証と「海のエコラベル」とは

MSC漁業認証とは持続可能で環境に配慮した漁業に与えられる認証制度で、国際的な非営利団体であるMSC(海洋管理協議会)が運営しているものだ。このMSC認証を受けた漁業で獲られた水産物には、下の写真のようなラベルが付されてスーパーの店頭などに並び、商品を買う側はその商品が持続可能性に配慮したものかどうか分かるようになっている。皆さんのなかにも、このブルーの「海のエコラベル」を目にしたことがある方もいらっしゃるのではないだろうか。

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このMSC認証、取得するための審査は非常に厳格だ。まず、その水産資源の量がきちんと管理されていて、資源量が持続可能な状態にあること。そして、その資源を獲る方法が海の生態系に配慮した方法であるということ。さらには、こうしたルールを漁業者に守らせるための体制が整っていることまでもが求められる。これらの基準をクリアすると、厳しい審査の上で晴れてMSC認証が与えられる。

つまり、あのエコラベルにはそれだけ重みがあるのだ。そして、このラベルがついた商品を我々が買い求めることで持続可能な漁業はますます活性化していく。消費者が水産物の未来のために果たせる役割は非常に大きいのだ。

MSC認証は欧米で生まれたこともあり、ヨーロッパやアメリカではすでにMSCエコラベルはかなり普及している。とくにヨーロッパの普及度は非常に高い。フランスやイギリスへ行くと、地方のごく普通のスーパーでもこのMSCのエコラベルが付された缶詰め、瓶詰めなどがズラリと並ぶ光景が珍しくない。

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実際に筆者が2018年にスペイン・ドイツを回った際に立ち寄ったスーパーの店頭にて。ここでは加工品中心だが、鮮魚売場でもMSCマークがついた魚の切り身やまるのままの魚が並んでいた。

ドイツやスペインにはそれぞれオーガニックスーパーのチェーンが拡大しているが、そうした店舗の水産加工品コーナーには一面すべてがMSC商品というのも珍しくない。その知名度も非常に高く、2018年の調査ではMSC認証の認知度は世界平均で40%に上った。

環境問題やアニマルウェルフェアといったエシカル問題に対して敏感に反応するヨーロッパの消費者にとって、MSCラベル付き商品を選ぶことは呼吸をするように当たり前のことなのかもしれない。

いっぽう、"水産大国"を自称するわが日本ではどうなっているとお思いだろうか。同調査において、MSCの我が国での知名度はなんとわずか12%。まだまだ日本ではMSC「海のエコラベル」が消費者に識られていないのだ。多くの日本人が「水産資源は獲っても獲っても、なにもしなくても増えていくもの」と思っていることからなのだろうか。

実はあんなところにも!?日本でも徐々に広がるMSC

日本の消費者にはまだまだ識られていないものの、じつはMSC認証は意外にも日本人の身近なところに広がりつつあるという。 日本での状況について、MSC日本事務所でプログラム・ディレクターを務める石井幸造さんに話を伺った。

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まず、日本の漁業における現在のMSC認証取得の状況はどうなっているのだろうか。

MSC日本事務所が開設されてから13年経ちますが、徐々に日本でもMSC認証が受け入れられつつあると感じています。現在、日本でMSCを取得しているのは北海道のホタテガイ、宮城県塩竈市のカツオとビンナガマグロ、静岡県焼津市のカツオ、ビンナガマグロ、岡山県瀬戸内市虫明のカキとなっています。MSCの認証は同一主体でも魚の種類ごとに数えますので、日本国内のMSC認証取得数は6件となります。もちろん、これらに加えて認証に向けて準備をしているものや審査にはいっているものもあります。」

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カツオ、ビンナガマグロ一本釣り漁業(写真提供:明豊漁業)

国内漁業の認証取得のハードルは高いものの、徐々に件数は増えている。これからに期待したいと思う。つぎに、国産の水産物に限らず、日本国内でのMSC製品の流通状況はどうなっているのだろうか。

「これまでは一部のスーパーマーケットや生協などの小売業者の売場でゆっくりと広がってきたのですが、2016年後半あたりから、大手水産会社のブランド製品や、大手企業の社員食堂のメニューなどでの採用が増えています。

そのきっかけとして考えられるのが、2015年に国連が持続可能な開発目標として宣言した「SDGs」の盛り上がりです。多くの企業がSDGsへの貢献を求められるわけですが、たとえば社員食堂でMSC認証の水産物を使用すれば、直接的に水産業に関係のない企業でも貢献できるわけです。そうした意識からMSC認証水産物を使ったメニューが提供されるようになっているんですね。」

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岡山県邑久町のカキ筏(写真提供:マルト水産)

MSC商品との出合いの場が一般の消費者が買い求めるスーパーマーケットだけではなく、企業の社員食堂などにも広がっているのは興味深いことだ。じつは欧米においても、日本における社員食堂にあたるケータリングサービスなどで積極的にMSC認証水産物を採用する動きが進んできた。

もうひとつ興味深いのが、SDGsをきっかけとして、企業がエシカル調達に真剣にならざるをえない状況となりつつあることだ。

「そうですね、SDGsの流れはとても大きな追い風と感じています。例えばいくつかの大手小売企業さんはMSCの採用を早くからしてくれていましたが、近年ではMSCラベル付き製品の取り扱いを始める新たな小売企業さんも増えています。

また、環境・社会・企業統治への配慮で企業への投資が決定されるESG投資の考え方が浸透していることも、企業がMSC製品を採用してくれる理由となっているのではないかと考えられます。」

外食産業に関していえば、あのマクドナルドでMSC「海のエコラベル」が付された商品を買い求めることができるようになったというのが、ここ最近の大きなニュースである。
その商品とは、食べたことがある人も多いであろう、白身魚のフライを使ったフィレオフィッシュだ。

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フィレオフィッシュとパッケージ

日本マクドナルドは昨年8月にフィレオフィッシュのメイン食材であるスケソウダラについてMSC認証を取得。現在販売されている同商品のパッケージにはMSC「海のエコラベル」がしっかりと表示されているのだ。

このように社員食堂や外食チェーンで進むMSCラベル製品の採用だが、いっぽうで家庭でもMSC認証を取得した水産物を楽しむことができるようになってきている。たとえば、イオングループのスーパーマーケットでは自社ブランドであるトップバリュの商品で、MSC認証を取得した刺身やたらこ製品など各種水産物の取り扱いを広げており、関東の生協連合であるコープデリでは、20203月期のMSC商品の取扱金額が前期の2.2倍となったというニュースも報じられた。確実に日本の消費者の間でもMSC「海のエコラベル」は広がりつつあるのだ。

さらに、日本人にとっては最も馴染み深い海の幸のひとつ、クロマグロについてMSC認証を取得する動きも進んでいる。宮城県は気仙沼に本拠を構える株式会社臼福本店は、世界初となる大西洋産クロマグロ漁業のMSC認証取得の手続きを進めているのだ。現在、太平洋クロマグロについては、乱獲による資源量の減少が深刻な問題となっており、クロマグロの大消費国である日本への国際的な風当たりも強かった。白福本店が取り組んでいるのは資源量が回復した大西洋クロマグロだ。この認証がぶじ取得となれば、いまや世界で大人気となった寿司という料理文化を通じて、クロマグロの資源問題について多くの日本人が考えるきっかけとなってくれるかもしれない。

消費者が守る水産物の未来 まずは食べることから始めよう

将来の水産物のため、MSC「海のエコラベル」のついた水産物を買い求め、持続可能な漁業をますます盛り上げるのは消費者にしかできない大切な役割だ。だからこそ、まずは持続可能な、言葉をかえればエシカルな水産物を食べてみてほしい。そうすれば、そうした水産物が何より「おいしい」ということに気づくはず。そう、大切なことは「エシカルはおいしい」なのだ。

しかし、日本でMSC「海のエコラベル」のついた水産物が手にはいるようになってきてはいても、その意味についてはほとんど知られていないだろう。そこで、MSC日本事務所がこのほど、こんなキャンペーンを開始したのだ。これを機にぜひ多くの人にMSC「海のエコラベル」付き商品を味わってほしい。

小さな「海のエコラベル」を選んで、大きな海を守ろう"キャンペーン

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MSC日本事務所プログラム・ディレクターの石井さん、広報担当マネージャーの鈴木さん

MSCでは68日の世界海洋デーにあわせ、61日から831日までの3ヶ月にわたり、"小さな「海のエコラベル」を選んで、大きな海を守ろう"キャンペーンを実施している。このキャンペーンを企画した広報担当マネージャーの鈴木夕子さんによれば、Twitter発の大人気キャラクター「しかるねこ」とコラボした動画がすでに50万回以上再生され、話題になっているとのこと。

そして、とにかくMSC「海のエコラベル」付き商品を味わってみたい人必見なのはTwitter上で応募して抽選であたるMSC商品のプレゼントだ。

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7月1日から731日までの第二弾プレゼントでは、MSC「海のエコラベル」のついた商品を含む「おさかなレンジ調理セット詰合せ」や、同じくラベルのついた缶詰セットなどが抽選で当たる。キャンペーンの応募にはTwitterアカウントが必要。詳しくは、キャンペーンの特設Webページを確認されたい。

水産資源を持続可能な形で将来に残していくために欠かせない、持続可能でエシカルな漁業への消費者からの応援。そして、そうやって作られた水産物はおいしいのだ。ぜひとも多くの人に、持続可能でかつおいしいMSC「海のエコラベル」のついた水産物を食べて頂きたいと思う。

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プロフィール
山本謙治(やまもと・けんじ)
1971年愛媛県生まれ、埼玉県育ち。
学生時代にキャンパス内に畑を開墾し80種の野菜を栽培。大学院修士課程修了後、大手シンクタンクに就職し、電子商取引と農畜産関連の調査・コンサルティングに従事する。その後、花卉・青果流通のワイズシステム(現・シフラ)にて青果流通部門を立ち上げ。2004年グッドテーブルズを設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事。その傍ら、日本全国の佳い食を取材し、地域の食材や食文化、郷土料理を伝える活動を続けている。2009年より高知県スーパーバイザー・畜産振興アドバイザーを受任。2019年には土佐あかうし「柿衛門」のオーナーとなる。
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